2025年、英国医療界に歴史的な転換点が訪れました。総合医療評議会(GMC)の発表によると、英国で初めて登録医師における女性の数が男性を上回りました。1970年代から徐々に増加していた女性医師の割合が、ついに過半数を占めるに至った背景には、医学教育における女性の活躍や働き方の変化など、さまざまな要因が絡み合っています。
英国の医療界において、長い間男性が主導的立場を占めてきました。しかし、近年その傾向に大きな変化が現れています。英国の総合医療評議会(GMC)の最新統計によれば、2025年に女性医師の数が男性医師を初めて上回りました。これは1970年代から始まった女性医師増加の流れが、ついに大きな節目を迎えたことを示しています。
特にスコットランドとイングランドで女性医師の比率が高く、スコットランドでは54.8%、北アイルランドでは53.5%の医師が女性です。一方、イングランドでは49.7%、ウェールズでは47.3%と地域によって差が見られますが、全体としては女性が過半数を占めるようになりました。この変化は単に数字の問題だけではなく、医療現場の文化や価値観、そして医療サービスの提供方法にも影響を与える可能性があります。
女性医師の増加は特に若い世代で顕著です。45歳未満のすべての年齢層において、すでに女性医師が男性医師を上回っています。このことは、今後さらに多くの男性医師が退職していくにつれて、女性医師の割合がさらに増加することを示唆しています。医療の世界における性別バランスの変化は、過去数十年間の社会変化を反映した結果といえるでしょう。
この変化の主要な要因の一つは、医学部における女子学生の増加です。GMCの分析によれば、2018/19年以降、英国の全ての地域で医学部の学生数において女性が男性を上回っています。また、大学入学審査サービス(UCAS)のデータによると、2020年には医学・歯学の学位コースに受け入れられた学生の64%が女性でした。つまり、医学教育の入り口の段階ですでに女性の比率が高いことが、医師全体のジェンダーバランスの変化につながっているのです。
専門分野別に見ると、女性医師は産婦人科や小児科といった分野で特に多く見られます。また、一般開業医(GP)も女性が57.7%を占めており、プライマリケアの分野では女性医師が主流となっています。一方で、外科分野では依然として男性が多数を占めていますが、それでも1991年には外科コンサルタントの女性比率がわずか3%だったのに対し、2024年には17%近くまで増加しています。
このような変化は、医学部から専門医になるまでのパスウェイにおいて、女性がより多くの選択肢を持つようになったことを示しています。しかし同時に、訓練を受ける女性医師と実際にコンサルタント(専門医)になる女性の間には依然としてギャップが存在しており、キャリア形成における課題が残されていることも事実です。
女性医師の増加は、医療現場における働き方やワークライフバランスの考え方にも変化をもたらしています。若い世代の医師たちは、従来の長時間労働や厳しい勤務形態よりも、仕事と生活のバランスを重視する傾向が強まっています。医学生を対象とした調査では、47%の回答者がキャリアをスタートさせる際の最優先事項として「良好なワークライフバランス」を挙げています。
こうした価値観の変化を受けて、医療機関側も柔軟な勤務時間や育児支援など、より多様な働き方を受け入れる体制を整えつつあります。特に北欧諸国では、育児と就労を両立させるための政策が充実しており、女性の労働市場参加が積極的に奨励されてきました。例えばスウェーデンでは、男女ともにパートタイム勤務を選択する医師が増加しており、医療専門職における新しい働き方のモデルが形成されつつあります。
しかし、女性医師の数が増加する一方で、医療界のリーダーシップ層における女性の割合は依然として低い状態です。NHS(英国国民医療サービス)の非執行取締役に占める女性の割合は37%にとどまっており、上級管理職ポジションでは男性が多数を占めています。医師としてのキャリアが進むにつれて直面する「ガラスの天井」は、今後の医療界における重要な課題となっています。
女性医師が増加することで、医療現場においてよりインクルーシブで支援的な環境が整い、彼女たちがリーダーシップを発揮できる機会が拡大することが期待されています。英国医師会(BMA)の代表者は、「英国で女性医師が男性医師を上回ることは、医療専門職と患者にとって重要な節目です」と述べ、女性医師が職場に定着し、充実したキャリアを築けるような環境づくりの必要性を強調しています。
英国で女性医師が男性医師を上回るという歴史的な転換点は、単に数字の変化だけではなく、医療の提供方法や医療現場の文化に大きな影響を与える可能性を秘めています。特に若い世代の医師における女性の割合が高いことから、この傾向は今後さらに強まると予想されます。多様な視点や価値観が医療現場に取り入れられることで、患者中心のケアやチーム医療の重要性がさらに高まるでしょう。
しかし同時に、女性医師がキャリアを通じて直面する課題にも目を向ける必要があります。特に上級職や専門的な分野における女性の代表性の低さ、育児と仕事の両立の難しさなどは、今後も取り組むべき重要な課題です。医療界のすべての人材が最大限の能力を発揮できる環境を整えることが、最終的には患者へのより良いケアにつながるでしょう。